皆様からいただいたご質問のなかでよくあるものをご紹介します。
随時更新していきますので、他の方がどんな点がわからないのか、どんなことで困っているのか、ご自身の身に置き換えて参考にしてみてください。
Q.うちには財産なんてないから相続なんて関係ないでしょ?
A.最も多く寄せられる質問です。
先にお断りしますが、それは全くの誤解です。
お金があっても揉め事にはなるでしょうが、むしろお金が
ない方が揉める危険性が高くなります。
それはなぜでしょう?
相続の際に問題になりやすいのは、財産の有無よりも『誰が相続人であるのか』だからです。
この質問を例として、財産がなかった場合を考えてみます。
子供がいないご夫婦の夫が亡くなりました。
夫が遺言書を残していなかった場合、法定相続分という割合で相続人が財産を分けることになります。
「え?子供がいない二人暮らしの夫婦に、妻以外に相続人がいるの?」と思われる方が多いのではないでしょうか。
配偶者が亡くなる年齢のご夫婦の場合、両親も既に亡くなっていることが多いため、夫の兄弟の存在を確認する必要があります。
(長くなるので割愛しますが、誰が相続人になるかに関しては民法第886条から890条に記載してありますのでご興味がある方はご確認ください。)
この夫の両親は既に亡くなっているとしましょう。
すると、夫の兄弟姉妹が相続人になってくる可能性が出てきます。
兄弟姉妹がいなかった場合は問題ありません。
では、夫に弟(以下Aさん)がいたとしたらどうでしょうか。
民法900条の規定により、このAさんにも相続分が認められます。
妻の相続割合は財産全体の4分の3、Aさんは4分の1となります。
夫が亡くなった瞬間から夫名義の財産は、妻とAさんの2人で『共有』しているという状態になるのです。
そのため銀行等の口座が凍結されたり、不動産の処分等ができなくなったりします。
すでに妻だけのものではなくなっているため、他人の財産でもあるものを勝手に使ってはダメ、という理屈です。
この場合妻が残された財産を自由に使えるようにするためには、Aさんと財産を分け合うための話し合いをする必要があります。
どの財産が誰のものかはっきりさせるのです。
これが『遺産分割協議』です。
このときAさんが「兄の財産は義姉さんが自由にしてくれていい」と言ってくれれば丸く収まります。
ですが例えば、
夫が生前Aさんと仲が悪かったとしたら?
Aさんがお金に困っていたら?
夫とAさんが異父母の兄弟だったとしたら?
各々の抱えている事情により状況は激変します。
こんなご時世ですから少しでも生活費が欲しい相続人もいるでしょう。
あいつとは顔を合わせるのも嫌だ、絶対に印は押さない、という相続人もいます。
中には『嫌がらせ』のために相続分を請求する相続人もいます。
どのような理由であれ相続人から遺産分割請求がされれば、それを拒むことはできません。それは法外な請求でもなんでもなく、相続人に法律上認められている正当な権利だからです。
このとき質問のように『財産がなかったら』どうなるでしょうか。
本当になにも財産がなければ話し合いをする必要もないでしょう。
ですが、あなたが住んでいるその家、土地は誰の物ですか?
配偶者の名義になっていませんか?
そうであれば、その不動産は立派な相続財産です。
そして市から固定資産税の納税通知書等が送られてきていませんか?
あるならば、そこに書かれている価格がその家や土地の一般的な評価額になるのです。
上記の例で、夫が不動産しか財産を持っていなかった場合、妻はAさんに相続分を請求されたら、その不動産の4分の1の金額を支払わなければならなくなります。
この例がどのような顛末となるかは、誰にもわかりません。
ですが、義理の兄弟に法定相続分を請求され、支払う持ち合わせがなかったがために唯一の財産である不動産を売却しなければならなくなり、住むところを失ってしまった方もいます。
一般の方が考える財産とは『お金』のことである場合がほとんどです。
ですから『うちにはお金がない=財産がない』と考えてしまうのです。
ですが忘れないでください。不動産は立派な財産です。
むしろ全相続財産の半分以上の価値を占めているのは不動産であることがほとんどです。
全ての方に不動産の価値に匹敵するだけの貯蓄があるわけではありません。
ないからこのような揉め事が起こり得るのです。
むしろお金があれば揉める可能性は少なくなるでしょう。
なぜなら、お金は不動産と違って『分けることができる』からです。
このような問題も遺言書を書くことで未然に防ぐことができます。
法定相続分は『遺言書がなかった場合』に問題になるからです。
遺留分という別の問題もあるにはあるのですが、それはまた次回以降に更新していく際にご説明しようと思います。
もしこの話に何かしら思い当たる点があるのなら、誰が相続人であるのか一度ご自身で戸籍を調べ、家系図等を作ってみると面白いかもしれませんね。
争いの防止になるのはもとより、思わぬ家系の発見等があるかもしれません。